妹からあなたに宛てて書かれた一通の手紙。
そこには、小さいころにはかんたんに言えてたはずなのに、
いつしか口に出すことの出来なくなっていた妹の願いがつづられています。
けれどもその手紙は、今でも妹の机の引き出しにそっとしまわれているのです。
あなたの元へ届けられることもなく……。
秋那…………………… |
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にぃちゃん、やっほ♡
最近はあんまり会えない日が続いてるけど、にぃちゃんは元気にしていますか? てへへ、今日のあたしはね、家へ帰ってきたらすぐに机へ向かって、このお手紙を書いています。 お手紙なんて普段は全然書かないから、ちょっと恥ずかしいかな。うふふ♡ あのね、あたしはここのところ毎日、学校とバンドの練習で大忙しなの。 もう少しであたし達のライヴがあるでしょ? その練習をしなくちゃいけないんだ。 スタジオって借りられる時間が短いから、いつもはセッティングが終わるとすぐに音合わせをして練習に入っちゃうんだけど、今日はたまたま先に入っていた人たちが長引いてたんで、始められるまでみんなとお喋りしてたの。 その時、メンバーの子が『将来、どんな音楽活動をしたい』って訊いてきたの。 みんなは、「世界ツアーが出来るような活動がしたい」とか、「このまま、みんなとずーっと一緒にプレイできたらそれでいいや」って言ってたんだ。 あたしもね、そんな夢が叶ったらいいなって思ってたんだけど、でもちょっと違うの。なんだか……大事なことが抜けてる気がして。 だからね、あたしみんなに言ったの。 あたし、にぃちゃんの前でプレイできたらそれでいいかな♡ ……って。 そしたら、みんなきょとんとした顔になって……そのあとプーッて笑い出したのよ。 もう、失礼しちゃう。あたし、そんなに変なこと言ったかなぁ。 みんなはね、「まぁーた、秋那のお兄ちゃん話が出た」なんて言ったと思ったら、「そんなにお兄ちゃんのことが好きなら、いっそのこと二人で音楽活動しちゃえばいいのに」なんて言い出したの。 それを聞いた時、あたしビックリしちゃった。だってそんなこと、今まで考えもしなかったんだもん。 にぃちゃんはあくまでにぃちゃんで、あたしがいつでもどこでも歌いだしたり、楽器を演奏し始めちゃったりするのを見て、「しょうがないな」って言いながらもあたしの髪を撫でてくれたでしょ? だから、あたしにとってにぃちゃんはあたしの歌を聴いてくれる人ってことしか考えてなかったの。 ……でも、もしにぃちゃんと音楽活動が出来たら……そう考えただけですっごく、ワクワクしちゃった。 だって、練習の時もライヴの時も、いつだってにぃちゃんといられるんだもの。これってスゴイことだよね! そう考えたら止まらなくなっちゃって、あたし家に帰ってからこうしてにぃちゃんにお手紙を書いています。 そのお手紙にはね、「にぃちゃん、お願い。あたしとバンドを組んで!」って……そう書こうと思ってたの。 ……でも、ね。考えちゃった。 にぃちゃんとバンドを組めたら、そりゃあ嬉しいけど……そうしたら今のお友達はどうなっちゃうんだろうって。 今までずぅーっと一緒にやってきたお友達。上手く演奏できない時も、励ましてもらったり相談してくれたりしたみんな。 そのみんなとはもう演奏できなくなっちゃうんだよね。 そう思ったら急に悲しくなって、ちょっぴり涙が出ちゃったの。 だから……ね。ゴメンナサイ。 やっぱりこのお手紙は出さないことにします。 にぃちゃんと演奏するのはとっても魅力的なことだけど、今のお友達も大事にしたいの。 でも、だからってにぃちゃんと演奏することを諦めたわけじゃないのよ? なんなら、にぃちゃんがあたし達のバンドに入ってもいいわけだし……ね♡ うふふ♡ にぃちゃん、いつかお返事聞かせてね。 |
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