夜にときめいて

 水族館でのデートが終わったあと、にぃちゃんがあたしのお家へお泊り
に来てくれることになったの♡
 きゃはっ! あたし、嬉しくって歌いだしちゃうよ♡ ラララ……。

 ”お兄ちゃんの日”の最後には、にぃちゃんがお泊りに来てくれること
がたまーにあったんだけど、最近はホントにご無沙汰で……今夜は久々の
お泊りだから、あたし一晩中はしゃいじゃうんだから!
 にぃちゃんは、こんなあたしを見て何だか複雑そうな顔をしていたけど
……。

 あっ、でもね。今日はお家に誰もいないの。
 にぃちゃんは、お家に着いたら、まずゴハンにするっていつも決まって
いるから、あたしも腕によりをかけて……って言いたいところなんだけど、
あたしの料理って……その……あんまり評判良くないんだよね……。
 きゃーー、これは軽くピンチだよ!

 

 ……そしたらね、にぃちゃんは事情を察したらしくって「途中でコンビ
ニに寄ろうか」って言ってくれたの。
 ご、ごめんなさい……ホントなら、あたしがゴハン用意できたら良かっ
たんだけど……。

 二人で簡単に食材を調達したあと、お家に着いたら早速ゴハンです! 
あ、メインの料理は買ってきたものだけど、サラダはあたしが作ったんだ
よ♡ ……てへへ。
 にぃちゃんと食卓を囲むことなんて滅多にないから、ついつい頬が緩ん
じゃった……♡

「……なんだか、こうしてると新婚さんみたいだね」

 あたしがそんなことをふと漏らしたら、にぃちゃんはゴホゴホって大き
くむせて「……し、新婚さんっ?」って凄くびっくりしてた。

 

 えー、そんなに驚くようなことかなー。

 夕食が終わったあとは、二人で音楽を聴きながらリビングで食後の休憩。
 今日は朝からずっとドタバタだったから……あたしもにぃちゃんも結構
ぐったりしていたのよね。
 でも、こんなに充実したお休みは……こうやってにぃちゃんとお出かけ
できた日だけ……なんだよね……。

 ミニコンポの音楽が一巡したら、いよいよお風呂!
 うふふ……今日1日いっぱい動いて汗もかいたもんね。にぃちゃんのお
背中、あたしが流してあげる♡ ……って思ったら、にぃちゃんてば「じ、
自分で出来るからいいよ!」って言って……慌ててお風呂に入っちゃった
……。
 もぉ、にぃちゃんてばいーっつも逃げちゃうんだから。子供の頃は、一
緒に入ってたこともあるんだし、別にかまわないと思うんだけどなぁ……。

 

変なの♡
 仕方ないから、にぃちゃんがお風呂に入っている間に、食事の後片付け
と……ゲストルームの準備をしちゃおう。本当なら、あたしの部屋で一緒
に寝たいところだけど……あの部屋ににぃちゃんをお招きするのは……ち
ょっとね……。

 にぃちゃんと交代であたしもお風呂に入って……ウフフ、今夜はいつも
より念入りに身体を洗っちゃった♡ 甘いローズのオイルを混ぜたお風呂
だから、きっとあたしの身体もきっと甘い香りがするのよ? にぃちゃん、
ドキドキしちゃうかな……♡

「にぃちゃん、おまたせ♡」

 ……お風呂から上がって、お気に入りのパジャマに着替えたら、ゲスト
ルームでお休みの準備をしているにぃちゃんを突撃!

 

 にぃちゃんももうパジャマに着替えてて……何だか、ぎょっとした顔を
してた。それで、「き、今日はもう遅いから、そろそろ寝ようかな……」
なんて言うのよ。
 そんなのダーメ♡
 あたしは持ってきたギターをにぃちゃんに差し出して、
「今日は一晩中だってはしゃいじゃうんだから♡」
 ……って宣言したの。
 にぃちゃんは、「やっぱり……」って、呟いてちょっとげっそりしたよ
うな表情をしていたけど……何か変なものでもおつまみ食いしたのかしら
……?

 あたしは、ギターの弦をポロン……て軽く爪弾くと、いつものように英
語の歌を歌いました。こんな甘い夜にぴったりな……スローなバラード…
…。にぃちゃんとあたしの愛を綴っているかのような……あたしが子供の
頃から大好きな曲。

 

 歌を歌い終わると、にぃちゃんは上手だね……って褒めてくれたよ。きゃ
は♡

「あっ、そうだ。今日はにぃちゃんも歌ってよ♡ あたしが、伴奏してあ
げるから。……ね♡」

 あたしがそうお願いすると、にぃちゃんは、
「ぼくは英語の歌なんて知らないよ……」
 って首を振ったけど、何か思い出したみたいに「じゃあ……1曲だけ」
って言って、歌ってくれたの。
 凄く有名な曲だからあたしも簡単に伴奏についてゆけて……あれ……で
もこの曲って……。
 にぃちゃんが歌った曲は……好き合っていた男女が、悲しい事情からお
別れをするっていう……とても切ない歌だったの。この曲はあたしもすっ
ごく好きで……いつも歌っているくらいだったんだけど……あれ……?

 

どうしたんだろう……。にぃちゃん……あたし何だか凄く悲しいよ……。
 歌詞がとうとう別れの場面まで来ると……あたしは堪えきれなくなって
……泣き出しちゃったの。
 にぃちゃんはびっくりして心配してくれたけど、あたしは全然涙が止ま
らなくて……にぃちゃんの胸に顔をうずめて……泣いちゃった。

 ……その後も泣き止むことができなかったあたしは……いつの間にか眠
りに落ちちゃったみたい……。気づいた時にはもう朝で、ゲストルームの
ベッドの中でした。あらら……あたし、にぃちゃんとおんなじベッドで寝
てたんだ……。
 にぃちゃんはもうとっくに起きていて……夕べのことがあったからちょ
っと顔を合わせ辛かったんだけど……おはようを言ってから、泣いちゃっ
たことを謝りました。
 でもね、でもね……あたし、あの歌を聴いた途端ににぃちゃんとあたし
のことを歌っているみたいに思えて……とてもやるせなくなっちゃったの。

 

 いつか、あたし達も歌のとおりに別れる時が来るんじゃないかって……。

 あたしが素直に告白すると、にぃちゃんは優しく微笑んで……髪を撫で
てくれました。
 そして……今気づいたんだけど、部屋でかかっているこの曲……これっ
て、あたしが一番好きなラブ・ソングだ。
 固い絆で結ばれた二人が、いつまでもずっと愛を育んで行くっていうと
てもステキな曲……。
 にぃちゃんを見ると、案の定照れたような顔をしていたけど……きっと、
にぃちゃんもあたしが泣いちゃったことの意味を察していたのね。

 ありがとう……にぃちゃん♡
 いつまでこの関係が続けられるかわからないけど……あたし達は兄妹だ
もの……。きっと、季節が移り変わっても想い続けられるよね……。

 


 あたしは、部屋に流れている曲に合わせて歌い始めました。
 We are together forever.
 Until death divides two persons.
 LaLaLa……♡











 

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