少しだけそばにいて

 てへへ……。あのね……今日は、待ちに待った2ヶ月に1度の”お兄ち
ゃんの日”なの♡

 にぃちゃんとあたしは、いつも離れて暮らしてるんだけど……今日だけ
は何の気兼ねもなく、二人で一緒にデートできる事になってるのよ?
 うふふ……あたしは、この日がいつも待ち遠しくて……何日も前からう
ずうずしちゃってるんだ……。きゃは♡

 それにね……今日は二人で水族館へ行くことになってるの。
 この前の”お兄ちゃんの日”に、にぃちゃんが「次はどこに行きたい?
今度は、秋那が好きなところへ連れて行ってあげるよ」って言ってくれた
から、

「あたし、一度にぃちゃんと水族館に行ってみたいな……♡」

 

 ……って、お願いしたの。
 にぃちゃんは、てっきりライブ・ハウスとか楽器店めぐりとか言い出す
と思ってたらしくって……少し驚いていたみたい。
 ふふん……♡ あたしだって、いつまでもおんなじところばっかりチョ
イスしたりしないんだから!
 せっかく、大好きなにぃちゃんとお出かけできるんだもの。いろんな場
所で想い出作りしたいじゃない? それに、たまーには恋人同士みたいに
水族館で肩を寄せ合って歩くのもいいよ……ね。なぁーんて♡ ……てへ
へ。

 ……そして、デートの当日はいつもよりいっぱい早起きして、にぃちゃ
んを迎えに行きました!
 だって、にぃちゃんてばあたしよりお寝坊さんなんだから……遅刻なん
かしないように、あたしが起こしてあげなきゃね!
 てへへ……。そしたら、寝起きのにぃちゃんも見られるかなぁ……なん

 

て思ったりして。

 にぃちゃんの家のチャイムをポーンと鳴らして……、
「にぃちゃん、やっほ。可愛い妹がお迎えに来たよ……♡」
 って言って、にぃちゃんのお部屋に突撃ー……! と思ったら、あらら
……にぃちゃんてば、もう起きてたのね……。
 あはは、にぃちゃんはもうしっかり外出用のお洋服に着替えていたとこ
ろでした。なぁーんだ、ざんねーん。

 でもね、にぃちゃんは「せっかく秋那と出かけるのに、ぼくが遅れるわ
けには行かないからね」……って言ってくれたの。
 にぃちゃんもそんな風に思っててくれたのね……。 てへへ……あたし
ちょっぴり胸がドキッとしちゃった♡

 二人で出かけた水族館は、街からちょっと離れてるんだけど、その分施

 

設も大きくて……すっごいたくさんのお魚がいるの。
 あたし、普段こういう場所に全然来ないから、色々目移りしちゃったよ
……。

 ……館内は、吹き気抜けになっている場所があって、お日様の光が高い
天井からさんさんと降り注いでいるから、とっても明るいの……。大きな
円筒型の水槽や螺旋型の水槽には、赤や緑や金色の見たこともないお魚が
泳いでいて……思わずうっとりしちゃった。

 なのにね、にぃちゃんたらキレイなお魚さんを見るたびに「何だか、お
いしそうだね……」なんて言うのよ。……もぉ、にぃちゃんチガウでしょ
ー!

 ……あっ、向こうにトンネル型の水槽がある! ねぇねぇ、にぃちゃん
行ってみようよ。

 

 あたしは、にぃちゃんの返事も待たずに、腕をつかんで走って行っちゃ
った……♡

 その水槽は、上も下も……右も左も水槽になっていて……まるで、あた
し達が海の中に潜り込んじゃったみたいな場所だったの……。

「うわぁ……幻想的……」

 あたしは……初めての経験に胸がきゅんきゅんしちゃった……♡
 こんなところに、にぃちゃんとずっと一緒にいられたら……すごくシア
ワセだろうな……。あたしがそんなことを考えていたらね、突然あたし達
の前にヌッって大きな影が現れたの!

「き、きゃーーー! に、にぃちゃん……さ、サメだよぉー!」

 

 あたし達の前に現れたのは……にぃちゃんなんかよりずっと大きなサメ
だったの! にぃちゃんは、向こうは水槽の中にいるんだから平気だよ、
って言ってくれたけど……あたしはびっくりしたよぉ……。
 そのままあたしは、にぃちゃんの腕をつかんだまま急ぎ足でトンネルを
抜けちゃった。
 にぃちゃんは笑ってたけど……あたしはホントのホントに怖かったんだ
からぁ……!
 ……けど、サメって他のお魚を食べちゃったり……しないのかしら……


 そのあと、あたし達はレストランでお食事したり----お寿司があるのに
はびっくりしちゃった----二人で、イルカ・ショーを見たりしたの。ちっ
ちゃい赤ちゃんイルカもいて可愛かったなぁ♡

 そして、にぃちゃんと次は何をしようか……って話していた時、あたし

 

は『温水プール』って書いてある看板を見つけちゃった……。
 にぃちゃんは、「水着を持って来てないよ」なんて言ってたけど……そ
んなのちゃんと売ってるもーん。あたしは、渋るにぃちゃんを説得してプ
ールへ強引に誘ったの。

 ……売店で水着を買ってにぃちゃんと別れたあと、更衣室に入って大急
ぎで着替えました。適当に買ったものだから、サイズが合わなくて胸がち
ょっときついけど……うん、大丈夫ね……♡

 プール・サイドでにぃちゃんを探していると……あ、いたいた。にぃち
ゃんは、椰子の樹がプリントされた青い水着を着て、居心地悪そうにして
る。
 ……あたしは、そんなにぃちゃんのところへ跳んで行って、腕にぎゅー
っと抱きついちゃった……♡
 にぃちゃんはお顔を真っ赤にさせながら、「そんなにくっついたら恥ず

 


かしいよ」なんて言ってたけど……こうした方が恋人同士みたいでいいで
しょ。

 それから……あたしとにぃちゃんは、二人で水のかけっこをしたり、ど
っちが長く潜れるかって勝負をしたり……普段のあたし達からは想像でき
ないくらいいっぱい遊んじゃった……♡

 水族館からの帰り道……あたしはにぃちゃんと今日あったことをずーっ
とお喋りしていたの。サメの事とか、プールのこととか……遊びすぎて、
身体がちょっとだるかったけど……この時間が、このまま永遠に続けばい
いのに……って思いながら……。
 でもね……もうすぐ分かれ道にさしかかるって時になって……急に思っ
たの。

 もう……終わっちゃうんだ……にぃちゃんとの1日が……。

 


 そう思ったら、あたし……何だかそれまでの楽しい気持ちが全部吹き飛
んじゃったような……そんな気がして……にぃちゃんの腕にすがり付いて、
そっと……お願いしました。

「にぃちゃん……今日はこのままずっと、一緒にいちゃダメ……かな……」

 にぃちゃんは、びっくりしたみたいだったけど、優しく「いいよ」って
微笑んでくれたの。
 きゃはっ♡ これでこそ、あたしのにぃちゃんだよ♡
 あたしは嬉しくって、またにぃちゃんに抱きついちゃった♡

 ねぇ……にぃちゃん……今夜は、あたしにステキな子守唄……聞かせて
くれる……?

 

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