雨の日と月曜日は

 雨……雨が降っています……。

 ……今日は雨の月曜日。本当なら学校があるのに、あたしは朝からずっ
とベッドの中……。

 ここのところ、にぃちゃんの為に歌う曲を夜遅くまで作っていたのが悪
かったのかなぁ……昨日の夕方から、ちょっと熱っぽくなってきたな……
と思ったら、夜になって急に眩暈がしてきちゃったのよね。
 フラフラする頭で、ためしに体温熱を測ってみたら……さ、三十八度!
 きゃー! こ、これは完全に風邪だよぉ……!
 けど、気づいた時には手遅れで、あたしはそのまま寝込むことになっち
ゃったの……。はぁ……ついてないなぁ。風邪なんて、子供の頃からほと
んど引いたことなかったのに……。

 おかげで、今日の学校はお休み。まぁ、仕方ないよね……。

 

 あーあ……にぃちゃんがお見舞いに来てくれたら、こんな風邪すぐに治
っちゃうのに♡ あ、でも……にぃちゃんが看病してくれるのなら、風邪
のままでもいいかなぁ……♡ てへへ。
 普段は、にぃちゃんとあんまり会えないから、なかなかかまってもらえ
ないけど……こういう時はすっごく優しくしてくれるのよね。
 子供の頃は、にぃちゃんが剥いたリンゴを「あーん」てしながら食べさ
せてくれたり、退屈しているあたしに本を読んでくれたり、子守唄を歌っ
てくれたりしていたのよ?
 今だって……あたしがおねだりしたら、きっとリンゴも子守唄もしてく
れるに決まっているもの。
 きゃー……♡ それって、すっごくシアワセそうな感じがするよ♡

 なぁーんて、考えていたら、また身体が熱くなってきちゃった。

 てへへ……。ダメだよね、病気なんかしていたら、ますますにぃちゃん

 

と会えなくなっちゃうもの。ちゃんと、大人しくして早く治さなきゃ……
ね。

 でもね……。やっぱり、今すぐこの部屋のドアが開いて、にぃちゃんが
入ってきてくれないかな……なんて思ってドアを見つめちゃうの……。う
ぅん……今日だけじゃないんだ……。本当はいつでも思っているの……。
 けど、開くわけない……よねぇ……。
 だって、今日は月曜日だもの……。にぃちゃんは、学校に行っているは
ずだし……そもそも、にぃちゃんがあたしの家に来てくれるのは、2ヶ月
に1度の「お兄ちゃん」の日くらい……。

 はぁー、退屈だなぁ……。

 ねぇ、にぃちゃんは、あたしがいない間、こんな風にあたしのことを考
えたり……する……?

 

 あたしはね、にぃちゃんのことがだーい好きだから、いつでもにぃちゃ
んのことを考えているのよ? ……音楽を聴いていても、楽器を弾いてい
ても、お勉強していても、お風呂に入っていても、ずっとずっと……にぃ
ちゃんのことばっかり考えているんだ……♡
 にぃちゃんは、今お勉強してるのかな、それともお友達とお話ししてる
のかな……って。

 だって、あたしはどんなに辛い時も悲しい時も……いつだって、にぃち
ゃんのことを考えているだけで、元気いっぱいになれちゃうんだもの……
♡ にぃちゃんは、あたしの元気を増幅してくれるアンプみたいな人なの
よねぇ。
 それにね、あたしはにぃちゃんがいてくれれば、どんな音だって奏でら
れる気がするの♡ シンフォニーだって、セレナーデだって……。

 あ、でも……にぃちゃんのことで心配になっちゃうことが、ひとつだけ

 

……あるんだ。

 それは……他の女の子のこと……。

 にぃちゃんてスポーツは得意だし、お勉強だってあたしのわからないと
ころを教えてくれるくらい出来るでしょ? ……それに、いつも会ってい
るあたしでさえボーっとしちゃうくらいカッコいいから、結構女の子にモ
テるみたいなの……。
 それが今のあたしにとって、最大の心配の種……。

 前なんかね、あたしとデートの待ち合わせをしていた時、先に来ていた
にぃちゃんに、他の女の子が話しかけていたことがあったの。
 にぃちゃんは、困ったような顔をしていたけど……話しかけた方の女の
子はやけに嬉しそうにしていたし……あたしはあたしで、胸の辺りがチク
チクして仕方なかったから……急いで駆け寄って、にぃちゃんに抱きつい

 

ちゃった!
 女のコは、突然現れたあたしに驚いたような顔をしていたけど、あたし
はそのままにぃちゃんを無理やり引っ張って行ったの。
 まったくもう……ホントに油断ならないよね!

 だから……今もホントは心配なのよ……。
 こうしてあたしが寝込んでいる間にも、他の子――たとえばクラスの女
の子とか――が、にぃちゃんに言い寄っていたりしたら……。学校にいる
間のにぃちゃんのことは、あたしもゼンゼン知らないし……にぃちゃんも
女の子には優しいから……つい……なんてことが……、

 ……あーん、ダメダメ、そんなのダメ!

 ……あたしは、どんな時でもにぃちゃんが一番だし……にぃちゃんにと
っても一番の女の子でいたいの。子供の頃から、ずっとにぃちゃんが近く

 


にいてくれて……今は離れちゃっているけど、あたしが困ってる時にいつ
でもぴゅーって飛んで来てくれるステキなナイトは、にぃちゃんだけ……。
将来ウェディングドレスを着て、そんなにぃちゃんとバージンロードを歩
くのは、絶対あたしだって決めてるんだもの♡
 だからね……にぃちゃんが、他の女の子と仲良くしているところなんて
……絶対に見たくないんだ……。

 ……んもう、こんなことを考えてたら、なんだか胸の辺りがムズムズし
てきちゃったよ。

 あたしが風邪なんか引いてなかったら、今すぐにぃちゃんの所へ飛んで
行って、このムズムズを解消しちゃうのにな♡
 でも、ホントのあたしは風邪でフラフラ……とてもにぃちゃんのところ
になんか行けないよねぇ……。
 はぁ……残念……。

 


 窓の外では、相変わらず雨粒がガラスをリズムよく叩いてて……あたし
を慰めてくれているみたいだった。こんな日でも、いつもなら雨音に合わ
せた曲を作っちゃうんだけどな……。
 もぉ……あたしをこんなに悩ませるなんて、にぃちゃんも罪作りだよね
……♡

 うふふ……。よぉーし、決ーめた♡ 学校が終わる時間になったら、に
ぃちゃんのお家に電話しちゃおうっと! あたしが行けないのなら、にぃ
ちゃんに来てもらえばいいのよ。
 可愛い妹が病気になったんだもの、きっとお見舞いに来てくれるよね…
…♡ てへへ。
 でも、そうしたらにぃちゃん……寝込んでいるあたしをずーっと朝まで
看病して……くれる……かなぁ♡ きゃはっ……♡

 

 ね、にぃちゃん、あたしのお願い……聞いてくれる?














 

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