永遠の人に捧げる歌

 クリスマスも近くなった十二月の下旬……あたしは街へお出かけしていました。

 一年で一番華やかな衣装に身を包んだ街の中は、いつも通っている道とは別の場所みたいに喜んでいて、なんだか街全体がこの季節を目いっぱい楽しんでるって感じ。
 あたしも心が弾んできちゃって、ついついステップを踏みたくなっちゃった!

 でも……この時期になるとさすがに冷えるよねぇ。あたし、寒いのだけは苦手なの。……おかげで、ステップを踏むっていうより、ただの早足になっちゃった。
 こんな時は、大好きなにぃちゃんにぎゅぅぅーってくっついて、暖まりたいのになぁ♡ どんなに寒い日だって、にぃちゃんと一緒なら、どこへでもお出かけしちゃうのに♡
 ……あぁーあ。なのに、今日もやっぱりにぃちゃんはあたしの隣にいないの……。
 ……まぁ、仕方ないんだけどね……。なにせ今日は、にぃちゃんにはナイショのお出かけだから……。

 あたしが向かった先は、街の郊外にあるちょっとした格式のキレイな教会! 漆喰塗りの真っ白な壁が、とても清潔そうであたしが大好きな場所なんだ♡
 そこに住んでらっしゃる神父さまは、ドイツからいらした青い瞳のステキな方で、あたしが行くと「こんにちは、アキナさん」て、ドイツ語なまりの日本語で、優しく出迎えてくれるのよ?
 神父さまはとても大柄な方で、あたしなんかお話をするたびにお顔を見上げなきゃいけないほどなんだけど、それでもゼンゼン怖いって感じはなくって、どんな時でも微笑みを絶やさない優しい人なんだ♡

 今日もあたしが教会に顔を出すと、白いガウンに身を包んだ神父さまが、にっこりと笑って出迎えてくださったの……♡

 神父さまは……両手にいっぱいのポインセチアを抱えていました。うふふ、キレーイ♡ 神父さまが言うには、この花はクリスマスの飾り付けに使うんですって。ふぅーん、そうなんだ……。教会の中は、キラキラの装飾に身を包んで、いつもの荘厳な感じとはちょっと違って、ちょっとはしゃいでいるみたい。
 実を言うとね、この飾りつけはあたしと神父さまでやったの♡ 神父さまは、「毎日、学校のお勉強があるのに、ありがとうございます」って言ってねぎらってくれるんだけど……てへへ、実は理由があるのよね。

 クリスマス・イブの夜……この教会をちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、あたしとにぃちゃんの為に貸してもらうことになってるの。本当なら、クリスマスのミサがあるんだけど、神父さまに特別にお願いして、にぃちゃんと2人のクリスマスをここで祝わせてもらうことにしたんだ♡ あ……、あはは……、ちょっと図々しかったかな……♡
 ……でもね、神父さまは、
「大切な人とクリスマスを祝いたいというのは、とても大事なことです。それが、ご家族であるお兄さんならなおのこと。ですから、ここでお祝いをしたいと言うのなら遠慮せずにおっしゃってくださってよいのですよ」
 ……って、言ってくださったの!
 でも、タダで使わせてもらうのなんて、いくらなんでも悪いし……それに、マリア様のご機嫌を損ねちゃったら……にぃちゃんとの仲を引き裂かれちゃうかもしれないもん……ね……。だからクリスマスまで、こうやって神父さまのお手伝いをすることにしたの♡
 あっ……、でもこのことは、にぃちゃんにはまだナイショ。てへへ……当日になったら、驚かせてやるんだ……♡
 にぃちゃん、きっとびっくりするよね。

 けど……あたしはここでクリスマスの飾りを一つ一つ付けるごとに、にぃちゃんとのクリスマスが近づいてくるような気がして……心臓がドキドキしてきちゃうの……。今までは、クリスマスっていうとお家で過ごすことが多かったから、2人きりなんてもちろん初めてだし……ちょっと心配だったりもするのよね……。
 あたしのことだから、何か変な失敗とかしなきゃいいな……とか……考えちゃって。

 ……以前なんか、お家でにぃちゃんの為に自作のクリスマス・ソングを歌おうと思ってギターを用意したのはいいけど……ちょっと張り切りすぎて、アンプへの電圧を上げたのが悪かったのかな……? ギターを鳴らし始めた途端に、アンプが燃えちゃって……みんなで、大騒ぎしたことがあったのよ……ねぇ……。
 ……サイレント・ナイトが、災難・ナイトじゃ……さすがにムードも何もないよね。

 だから、今年こそは失敗してるとこを見せないように、がんばらなきゃ……って思ってるの。下準備もこうやってちゃくちゃくと進めてるんだからきっと大丈夫……だよ……ねぇ?

 でも……いざにぃちゃんと過ごすってことになってもどうすればいいのかしら。プレゼントを渡すのは当然としても……そのあとは……もう火はダメだし……。
 やっぱり……恋人たちが語り合うクリスマスだもの。にぃちゃんの腕に、自分の腕を絡ませながら祭壇の前に歩み寄って、マリア様の前で永遠の愛を誓ったあと……にぃちゃんがあたしの唇に……そっと……き、ききき……き……きゃはーっ♡ もう、にぃちゃんたら、恥ずかしいよぉー……♡

 なぁーんて、あたしがにぃちゃんとの甘い夜を想像していたら……ドンッって何かにぶつかっちゃった。
 きゃーん、神父さま、ごめんなさぁーい……って、あれ……?

 あたしがぶつかったのは、神父さまじゃなくて……もっとちっちゃい……青い服を着た……。
 わぁお、可愛いー♡
 あたしのお尻とぶつかっちゃったのは、青いガウンを着たちいさな男の子でした! その子は、きょとんとした顔であたしを見つめていたんだけど、急に背中を向けると、ぴゅーって走って行っちゃった。
「……あ♡」
 男の子の走って行った先には、おんなじガウンを着たおチビちゃん達がいっぱいいる♡ きゃはっ、みんな可愛いー。
 そこへ神父さまがやってきて、
「あの子達は、聖歌隊の子供達なんですよ。今日は練習日なんです」
 って教えてくれたの。
 へぇ……聖歌隊かぁ。うふふ、いつもと違う服を着ているからかな? みんなちょっぴり緊張した顔で、祭壇の前に集まってる。

 ……あっ、そうだ! これよ、これ!
 これなら、にぃちゃんも喜んでくれるよね!

 イブの当日……。
 あたしは、怪訝そうにしているにぃちゃんの腕を引っ張って、教会へやってきました。
 キャンドルに灯された薄暗い教会は、とてもキレイだったけれど、あたしは真っ先に祭壇の前に立つと、にぃちゃんにぺこっとお辞儀をして、
「今日はにぃちゃんの為に、あたしがたった1人の聖歌隊になってあげるの。にぃちゃん、ちゃんと聴いててね……♡」
 って言うと、英語で「あめにはさかえ」や「さやかに星はきらめき」を歌いました。

 にぃちゃんは、「秋那らしいな」って言いながらも、ずっとあたしの歌に耳を傾けててくれたの……♡
 今回の為に、聖歌隊のおチビちゃん達に混じって練習したのは、にぃちゃんにはナイショね。てへへ……。

 そのあとも、二人でプレゼントを交換したりして……初めて過ごしたにぃちゃんとのステキな聖夜は……ゆっくりと、シアワセに……過ぎてゆきました……♡

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