「ねぇねぇ、にぃちゃんも聴いてみる?」
音楽が大好きな秋那ちゃんは、気分次第で歌い出すちょっと困った癖のある女の子。
自作の歌を作っては、大好きなにぃちゃんに聴いてもらうことを楽しみにしているみたい。
実はこっそり自分の淡い想いを歌に託しているようですが、
果たしてそれがにぃちゃんに届く日は来るのでしょうか?
……Walking,Walking,Walking,I walking your street♡ うーん、やぁっぱり歌っていいなぁ。 気持ちが、すぅーっと透明になる気がするものね。 あたしは、ちっちゃい頃から音楽を聴いたり、楽器を弾いたりするのが大好き! もちろん、歌を歌うのだって。 だから、こんなに気持ちのいい日は、ついつい大好きな曲を口ずさんじゃうの。 そんなあたしを見ると、にぃちゃんはいっつも困ったような顔をするけど、これって自然なことだと思うんだけどなぁ。 ……うふふ♡ にぃちゃんもたまには一緒に歌ってくれたらいいのに。 そうしたら、きっとステキなセッションになるんだけどなぁ……。 にぃちゃんてば結構照れ屋みたいで、あたしがリズムをとっても絶対に知らん顔しちゃうのよね。 もう、こんなに愛しい妹と歌を歌いたくないのかしら。次に逢った時は絶対に、にぃちゃんをリズムに誘っちゃうんだから♡ にぃちゃん、覚悟しててね。 ……あ、そうそう、こうしちゃいられなかったんだ! 来週の日曜日に、学校で音楽コンクールをやることになってるの。 あたしのクラスももちろん出場しなくちゃいけないから、今日も頑張って練習しなくっちゃ。 もしかしたら、にぃちゃんも見に来てくれるかもしれないしね♡ 大好きなにぃちゃんの前で失敗しちゃったらみっともないもの、全力投球よ! てへへ、たぁーのしみだなぁ♡ ……さぁ、練習、練習! ……あれ、この帽子……なんだっけ。 クローゼットの奥の方にしまい込まれていた、小さなベレー帽。 これ……見覚えあるんだけど……。 あっ、そうそう、思い出した! これ、あたしがまだ子供の頃、一度だけ出場した音楽コンクールに被って行ったベレー帽だ。 うわぁ、懐かしい。まだ残っていたのね。 ……にぃちゃんは覚えてるかな? まだあたし達がもっとちっちゃかった頃、ご町内の催し物でやってたコンクールに、二人で参加したことがあったよね。 あたしもにぃちゃんもまだほんのお子さまだったから、音程の取り方とか全然知らなくって……。くすす♡ いま思い出すだけでも笑っちゃう! 二人とも、練習の時から音程をはずしっぱなしだった。 ただただ、周りの人より大きな声で歌ってただけだったの。 あたしはにぃちゃんと一緒に歌を歌えるってだけで、すっごく幸せな気持ちだったからそんなの気にも留めてなかったけど、オトナの人やにぃちゃんがあたしの歌を褒めてくれるのが嬉しくて……。ずーっと歌い続けていたっけ。 あの頃から、あたしの歌はいつだってにぃちゃんに褒めてもらう為……うぅん、にぃちゃんに捧げる為の歌になっていたの。 結局、コンクールは最下位に終わっちゃったけど、あたしは楽しかった。 そして、最後に言ってくれたよね。 「いつか、秋那の歌をもっと大きな舞台で聴けたらいいな」って。 あたし、にぃちゃんがくれたその言葉が嬉しくて……だから今まで、歌の練習も楽器の練習も頑張ってきたの。 にぃちゃんが言っていたみたいに、いつか大きな舞台であたしの歌を響かせられるように。 そして、その歌を一番大好きなにぃちゃんに聴いてもらえるように……。 ……ねぇ、にぃちゃん。 まだまだ不器用なあたしだけど、あの頃よりは上手く歌えるようになってるよ? だから、またあたしの歌を聴きに来てほしい……な♡ |
FIN. |