街を抜けて行く風がやさしくなって、空を流れる雲がうーんと高いところを通るようになった季節の日曜日。
あたしは、陽気に誘われてお散歩に出かけました。
木々の梢から漏れる日差しはどこまでも澄んでいて、まるで心の中までキレイになって行くみたい。
うーん、秋って大好き!
「Lying in funny Sunday I hear silent voice〜♪」
あんまり嬉しいから、ついつい大好きな歌が出てきちゃう。
そんな感じでウキウキしながら歩いてゆくと、プロムナードの出口で人だかりが出来てたの。
なんだろう……って思って近づいてみると……。
「あっ、文化祭やってるんだ」
それは、近所の男子高校で行われている文化祭でした。
「そういえば、今日だっけ……」
校門から中を覗くと、チケットを配ってる男のコやアトラクションをやってる男のコ達がいる。
みんなすっごく楽しそう。
こんなお天気のいい日はまさに文化祭日和だよね。
あたしも参加したいなぁ。
……そうだ! いいこと思いついちゃった♪
♪ ♪ ♪ ♪
「てへへ♪ にぃちゃん、来て良かったでしょ?」
あたしは、にぃちゃんの腕に自分の腕を絡ませて言った。
実はね。あれからすぐ、にぃちゃんに電話しちゃったんだ。
二人は兄妹なんだけど、いつもは離れて暮らしていて滅多に会えないの。
だから、今日は文化祭を口実に呼び出しちゃった。
うふふ♪
手には、にぃちゃんから買ってもらった綿菓子の袋や風船を持って、あたしはすっかりご満悦。
それに、大好きなにぃちゃんとこうしてデートできるんだもの。今日は最良の日だよ!
「I wanna be with you Please stay here〜♪」
てへへ♪ ついまた歌が出てきちゃった。
いつも機嫌が良くなると歌を歌っちゃうの。
にぃちゃんは、そんなあたしを見てちょっと困ったみたいな顔をするんだけど、決まって言うのよ。秋那は歌が……、
「秋那は歌が好きなんだね」
ほらね! いつもこう言ってくれるの♪
「あっ、にぃちゃん! あっちでステージが出来てる。ライヴやってるみたい! 行こう、行こう♪」
目ざとくライヴ・ステージを見つけたあたしは、にぃちゃんを引っ張って行った。行こうとした。
けど、にぃちゃんはあたしの腕からするりと抜けると、
「ゴメン、秋那。ちょっと待っててな」
って言って、走って行っちゃった。…………にぃちゃん……?
目でにぃちゃんを追ってゆくと、にぃちゃんはキレイな女の人に話しかけていた。
何だか……二人ともすごく楽しそう……。
あたしは、今までの気分なんかどっかへスッ飛んじゃって……こう……なんてゆーか、ああ、もうっ!
気づくとあたしはステージに向かって走り始めていた。
そして、そのままの勢いでステージに駆け上ると、歌を歌っていたボーカルの男のコに、
「ゴメンナサイ、これ持ってて!」
と言って、にぃちゃんから貰った綿菓子と風船を渡すと、マイクを取り上げた。
そして……、
「I can't keep my emotional control because of something about youー!!」
集まっていたみんなはびっくりしたみたい。
そりゃそうよね。
女のコが突然ステージに上って歌を歌いだしたんだから!
しかもボーカルが女のコに変わったことで、それまでステージには興味なかった人たちまで集まって来た。
だって、ここは男子校だから女のコが歌うはずないもん。
みんな、『なんだなんだ!?』って顔してこっちを見てる。
最初は唖然としてたバントの人たちも、あたしの歌に合わせてジャムってくれた。
そして、気がつくと……あれあれ!? なんだか、大盛況だよ! お客さんが続々と集まってくる!!
その中にはトーゼン……、
「あ、秋那ぁっ!?」
鳩が豆鉄砲を食らったようなにぃちゃんの姿もあった。
♪ ♪ ♪ ♪
「なにやってたんだ、秋那……」
ステージから降りたあたしに、にぃちゃんは開口一番そう言った。
だって……他の女の人にウツツを抜かしちゃうにぃちゃんがもどかしくって……それで、振り向いて欲しくて……つい。
言葉にこそしなかったけど、あたしの顔を見たにぃちゃんにはわかっちゃったみたい。
呆れたような顔をして、『バカだなぁ』って言うと、
「さっき会ってたのは、僕の学校の先生だよ」
え、えぇぇええーーっっ!?
そうだったの? あたし、てっきり……。
うわぁーん、大失敗しちゃったよぉ!
それにそれに、バンドの人たちにも迷惑かけちゃったよね……。
あたしが申し訳なさそうな顔で振り返ると、ボーカルの人がサムズアップで答えてくれた。
そして、
楽しかったよ、また一緒に歌おう……そんな意味の歌を歌ってくれた。
「ま、ハプニングも文化祭の一つってことさ」
にぃちゃんがそう言ってフォローしてくれた。
うん、だけどね。こんなハプニングはもうこりごり。
にぃちゃんには、あたしだけ見ていて欲しいから。
もう一度、さっきより強くにぃちゃんの腕を抱きしめると、あたしは囁くように小さく歌った。
「Wow Wow Don't leave me…… Please,please…… Don't leave me……」
SISTER PRINCESS MAKER/AKINA
“GIRLS JUST WANT TO HAVE FUN”:OVER
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